ドイツ雑誌 JAPANDIGESTロングインタビュー(日本語訳)

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2021/02/05

H-el-ical//と国境なき音楽:シンガー・ソングライター Hikaru//のインタビュー

インタビュアー:Diana Casanova

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2020 年、音楽プロジェクト「H-el-ical//」のデビューを記念して、歌手のHikaru//にインタビュー。ソロアーティストとして、作詞家としてのキャリア、また日本のアニメソングの良さやH-el-ical//の音楽の特徴などについて熱く語る。

10年間、プロデュース・作曲家の梶浦由記のもと、3人組ヴォーカルユニットKalafinaのメンバーとして活動し、『oblivious』(空の境界)、『Magia』(魔法少女 まどかマギカ)、『to the beginning』(Fate/Zero)など数々のアニメヒット曲を世に送り出してきた。

2019年、Hikaruは独立した。そしてソロプロジェクトH-el-ical//(発音は「ヘリカル」)で、長年の願望であったソロ活動の夢を叶えた。2020年には、H-el-ical//として2枚のシングルをリリース。その曲はTVアニメ『グレイプニル』オープニングテーマでありデビュー曲となる「Altern-ate-」。そのわずか数ヶ月後にTVアニメ『禍つヴァールハイト-ZUERST-』のエンディングテーマであるシングル「disclose」をリリース。大のアニメ・マンガファンでもあるHikaru//はメロディに自作の歌詞をのせて、表現力豊かな声で独創的な音を生み出す。

JAPANDIGESTのインタビューでは、動画プラットフォームYouTubeから始まったシンガーソングライターとしての活動に焦点を当てて、現在も積極的に楽曲を発表しているHikaru//が語る。更に日本を代表するアーティストのプロデュースを数多く手がけてきた音楽プロデューサー・ジャーナリストの冨田明宏氏と一緒に、日本の音楽の世界や、アニメ音楽について語る。

「H-el-ical//」というアーティスト名はユニークだと思います。なぜこちらの名称になったのでしょうか?

Hikaru//:最初に「H-el-ical//」の名前で活動始めたのはYouTubeに音楽をアップロードするときでした。その時はまだ「Hikaru」だということを公開せずに活動を始めたため、「H-el-ical//」という活動名、プロジェクト名を付けました。

「helical」は英語で「らせん状」という意味です。なぜアーティスト名としてこの言葉を選びましたか?

Hikaru//:まず、「らせん」というのは、「常に上昇する線」です。私の活動も常に前向きに、上を向いてやっていきたいので、「helical」という単語を選びました。また書き方としては「H-el-ical//」と、文字の間にハイフンを入れています。それはハイフンの「el」をとったら、自分の名前である「ヒカル」と読めること。またハイフンの間に入っている 「el」は、英語の「elevation」の略なのですが、「elevation」というのは「上がること」・「上げること」という意味を持っています。この言葉には、自分以外の人の力も借りながら、活動に取り組んでいきたいという気持ちを込めています。

最後のダブルスラッシュは、プログラミングでよく使われている「終了証明」のことであり、そのもの「である」という意味なのですね。そこから、このソロプロジェクトは自分が皆さんと一緒に上昇していくもの「である」という決意を込めてつけました。ですから、現在「H-el-ical//」のHikaruとして活動するときは、最後に「Hikaru//」とダブルスラッシュをつけるようにしています。

2020年5月のデビューする前に「H-el-ical//」としてYouTubeでいろいろな曲を無料でアップロードされました。それはなぜでしょうか。そのプラットフォームに利点は?

Hikaru//:Kalafinaの「Hikaru」としてではなくて、ソロのアーティストとして皆さんがどういう風に自分の歌を聞いてくれるかなというのが気になって、最初に「Hikaru」という名前を出さずに、YouTubeに曲を公開しました。YouTubeの利点は、日本だけではなく、国内外、たくさんの方がその曲を聞けるということですね。Kalafinaの時代から、日本だけではなく、海外の方からの応援もたくさんあるということが分かっていました。Twitterを個人的に始めたときに、本当に多くの海外の方からもメッセージをいただきました。やはりそういう方々がいてくださるというのを知っていたからこそ、YouTubeでの音楽を配信を決めました。

 

「日本語ができない方々にも気持ちと「言葉」直接届けたい」

 

YouTubeで公開される曲の概要欄で、サブタイトルでも英語や中国語の翻訳はあります。このような方法は海外のファンが理解できる言語で話しかけるようになりたいという気持ちからでしょうか?

Hikaru//:そうですね。やはり見てくださっている方に届けたいという気持ちでしています。最初は Twitterも日本語だけでメッセージを書いていました。それに対して海外の方から日本語でメッセージをいただくこともありましたが、中にはHikaru//が英語を少し理解できるということをご存じの方もいて、英語でメッセージを送ってくれるかたもいました。日本語がわからない方でも「英語だったらわかるかな?」と、少しでも自分の気持ちを直接伝えられたらいいなと思って、TwitterYouTubeの字幕機能も使って、出来る限りではありますが皆さんに「言葉」としても想いを届けています。

 

「H-el-ical//」の曲に関してお話したいと思います。外国語のタイトルをついている色んな曲がありますね。例えば、トルコ語の「yolcu」(「旅人」)、スペイン語の 「Avaricia」(「欲張」)、ポルトガル語の「Amanhecer」(「夜明け」)。それはなぜでしょうか?

Hikaru//:先ほどもお話ししましたが、海外の皆さんとも繋がっていたい、楽しんでもらいたいという思いがあります。もちろん日本語で歌詞は書いているし、日本語のタイトルをつけることもあります。ただ海外の方にも聞いてほしいなという思いを込めて、タイトルは色々な国の言葉を選んでいます。特にファーストアルバムは、色々な国に旅しているような気分になってもらえるような1 枚になっているので

 

ジャンルも国境もない音楽

 

ご自身の曲はどのジャンルの音楽に当てはまると思いますか。「J-POP」というジャンルには入りますか?

Hikaru//:Kalafina のときもそうだったのですが、「H-el-ical//」としても、ジャンルというものにとらわれずに、音楽を表現してきたいという風に思っているので、特にこのジャンルということは決めていません。今まで「H-el-ical//」で出してきた曲も、ポップスだけにとらわれずに、少しジャズだったり、ロックだったり、いろいろなジャンルの要素を取り入れて曲を作っているので、一口に「ポップス」とは言い切れないかもしれません。

冨田 : 広い意味でいうなら、ポップソング・ポップスということになるでしょう。ただ私たちは「H-el-ical//」は「これです」という風に決めずに様々なコラボレーションをしています。例えば、アニメ作品とコラボレーションをするという機会が多くなっていくと思うのですが、アニメの中にも、コメディがあったりとかバトルがあったりとか、ヒストリーが あったりとか、いろいろなものがあります。それらとコラボレーションをしていく意味でいえば、様々なものと融合して、音楽が生まれていくという風に考えられます、それこそ「ジ ャンレス/genre-less」という言葉は一番ふさわしいではないでしょうか。「ジャンレス」 であり「borderless」であるというか。ですから、ロックもやれば、ジャズもやるし、クラ シックもやると思います。後は、クラブミュージックやダンスミュージックであったり、 EDMのような要素を取り入れていたりするので、もしかしたらジャンル分けで当てはめるのはなかなか難しいかもしれないですね。

日本音楽と「H-el-ical//」の音楽に関して何も知らないドイツ人へ向けて、最初にどの曲を聴いてほしいというオススメはありますか?

Hikaru//:ドイツの皆さんがどんな音楽が好きかによってオススメしたい曲も変わりますね。「H-el-ical//」はそれこそいろいろな楽曲のジャンルを取り入れて作っているので、 1つだけ「これです」というのが難しいです。好きなジャンルというか、こういう音楽をよ く聞くという、人気の音楽とか、雰囲気がわかると、それに合うようなチョイスができると思います。

日本の方でしたら、これも難しい質問ではありますが、一番最初に「H-el-ical//」として公開した「pulsation」という曲でしょうか。この曲は H-el-ical//をスタートすることになった時の気持ちを歌詞に綴っています。また、自分が落ち込んだとか、悩んでいるときに、どういう風にその気持ちを乗り越えて前に進んでいくかということを書いた歌詞でもあります。なので、聞いてくださった方の背中を押せるような曲になっているのではないかなと思います。初めて聞いてもらうのでしたら、曲自体もアップテンポですし、聞きやすい曲ではあるので、「pulsation」をオススメしたいと思います。

 

今までの曲の歌詞をすべてご自分で作詞されてますね。歌詞を書くときに、特に日本語でひらが な、カタカナ、漢字、ローマ字でいろいろな方法で書けます。「disclose」の歌詞ではカタカナが多いイメージですが、カタカナで書くとどのような影響があるのでしょうか?

Hikaru//:ひらがなで書くと柔らかくなりますが、カタカナにすると少し硬い感じの表現になるような気がします。カタカナにすることでちょっと違和感が出たりもしますね。音楽を聴いているだけではわからないですが、歌詞を見て、それがカタカナになると、ちょっと「うん?」と引っかかることがあります。そうすることによって、その歌詞を見たときに目を引きます。特に注目してほしい言葉がある時に、カタカナを使うとすごく効果的です。

disclose」は歌詞には色々仕掛けを入れています。例えばキャラクターの名前を歌詞の中に入れているので、それも探してもらえると面白いかなと思います。アニメを見ている人が歌詞を見ると面白い仕掛けを発見できると思います。

 

バラエティに富んでいて作品との関連性が深いアニメソング

 

ドイツ人の読者が日本の音楽、特にアニメソングに関して何も知らないかもしれません。アニメソングとほかの日本の音楽の違いはありますか。特徴は何でしょうか?

冨田: 僕の考え方なんですけれども、どんな内容を扱っていても、やはりアニメソングはファンタジーの要素が含まれていると思うんですね。現代の物語を扱っていても、あとはヒストリーを扱っていても、あとは「異世界」、ファンタジックな世界を扱っていても、すべてはアニメーションにすることによって、仮想の世界になる。そこに音楽を与えるということは通常のポップスとは違うアプローチになると思っています。つまり、通常のポップスをそのアニメに当てはめようとすると、僕は違和感が出てしまうと思っています。そのために、 そのアニメ作品のために一生懸命アーティストとか、あとはサウンドクリエーターたちがアイデアを出して作ってきたのが今までのアニメソングというものなんですね。そのため、例えば、アーティストが自分の思いであったりとか、自分が今までやってきたものとか、これから皆さんに伝えたいことというものを表現するときの音楽の場合と、一方でこのアニメに音楽を与えようと思って音楽を考えるのは、意味も異なりますし、結果的に音楽も変わってきていると思います。きっと、ドイツの皆さんも日本の音楽をもし聴く機会があれば、 「あ、アニメソングの曲ってこういう感じかな?」、またそれ以外の日本の「いわゆる JPOPってこうだな」とか、違いや変化を感じてくださるのではないかと思っていますね。

 

Hikaru//さんは、アニメソングを作詞し、歌っているソロアーティストとして、日本のアニメソングや普通の日本の音楽の違いに関して、どう思いますか?

Hikaru//:アニメソングというのはアニメに添った歌詞で書かれているので、ちょっと非日常的という要素があると思っています。冨田さんもお話しされていましたが、ファンタジーの要素が絶対歌詞の中に入っています。個人的には、ファンタジーだからこそアニメを見た人がぐっと入り込んで聞けるというのがアニメソングだと思います。アニメソング以外の日本の音楽は、皆さんが普段感じているような気持ちを歌詞にしているものが多く、聞く人の気持ちに寄り添ってくれるものだと思います。アニメソングはやっぱり非日常に飛べるからこそ魅力があり、「日常は離れたい」というときに聞くとすごく楽しめる音楽だと思います。

 

洋楽はまた違うスタイルかもしれませんね。どの違いがあると思いますか?

冨田: 僕はアニメソングと洋楽とは全然違う方法論から生まれていると思っています。海外の音楽、洋楽とか考えると、ロックであったり、R&Bがあったり、ジャズ、クラシックというのは、一つの音楽のカルチャーです。また例えば、ロックであれば、60年代の Beatles がいて、70年代はパンクが出てきてというように歴史がありますよね。一方で、アニメソングの場合、そのアニメ作品が「この音楽がいいな」と思えば、そこにロックも入れていいし、クラシックの要素も入れてしまってもいいし、ジャズの要素も入れてしまってもいいと いうことで、そういったあらゆる制約みたいなものを考えないで、「このアニメに対して相応しい音楽って何だろう」と考えるところから始まります。歴史とか、あとは文脈、文化というのを一度忘れてしまって、すべてミックスして作れるのがアニソンです。なので、日本的な要素も洋楽的な要素も、例えばイギリスのポップスの要素とか、もっといえば中国のポップスとか、インドのポップスだったりとか、あとはもちろんドイツの民族音楽であったりとか、そういうことも全部合体させて作ってしまっていいのがアニメソングなのです。          

 

富山県のおすすめ名所

 

Hikaru//さんは富山県で生まれ育ちました。まだ富山県に行ったことはない観光客に観光のおすすめは?

Hikaru//:もし、9月の1日から3日に富山に来るようだったら、八尾という町で「おわら風の盆」というお祭りがありますよ。日本の伝統文化で音楽のジャンルに「民謡」というものがあるんですけど、民謡を奏でて歌いながら、それにあわせて踊るお祭りです。その期間に、もし日本に来ることがあれば、ぜひ一度見に行くのはいいと思います。この「おわら」という踊りを富山市の小学校だと体育の授業で習うんですよ。それを体育祭で行いますが、 それぐらい富山の人にとっては重要な文化です。日本の文化として海外の人にも楽しんでも らえるようなお祭りだと思うので、ぜひ見てほしいですね。

あとは、美術館でいうと墨だけで書く絵を飾っている富山県水墨美術館、富山市ガラス美術館があります。富山市ガラス美術館は入っている複合施設「TOYAMA キラリ」を建てたのが、世界的に有名な建築家の方で、すごくきれいな建物で、その建物を見るだけでとても価値があると思うので、ぜひ行ってみてほしいです。

JAPANDIGEST の読者へのメッセージをいただけますか?

Hikaru//:最後まで読んでくださってありがとうございます。今このインタビューを読んでHikaru//のこと、「H-el-ical//」のことを知ってくださった方にこれからたくさん音楽を届けられるように頑張ってきたいと思っているので、よろしくお願い致します。日本に来られるようになった際には、ぜひ観光に来てもらえると嬉しいなと思っています。富山に限らず、本当に美しいところがたくさんある国なので、ぜひ直接日本の文化を体感しに来てください。